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2.鼻血論争について(2014.5.18)
鼻血論争について
北海道がんセンター 名誉院長 西尾正道
巷では、今更になって鼻血論争が始まっています。事故後は鼻血を出す子どもが多かったので、現実には勝てないので多くの学者は沈黙していましたが、急性期の影響がおさまって鼻血を出す人が少なくなったことから、鼻腔を診察したこともない放射線の専門家と称する学者達は政府や行政も巻き込んで、放射線の影響を全否定する発言をしています。
しかし、こうしたまだ解明されていない症状については、根源的に物事を考えられない人には、ICRPの基準では理解できないのです。ICRPの論理からいえば、シーベルト単位の被ばくでなければ血液毒性としての血小板減少が生じないので鼻血は出ないという訳です。しかしこの場合は、鼻血どころではなく、紫斑も出るし、消化管出血も脳出血なども起こります。しかし現実に血小板減少が無くても、事故直後は鼻血を出したことがない多くの子どもが鼻血を経験しました。伊達市の保原小学校の『保健だより』には、『1学期間に保健室で気になったことが2つあります。1つ目は鼻血を出す子が多かったこと。・・・』と通知されています。またDAYS JAPANの広河隆一氏は、チェルノブイリでの2万5千人以上のアンケート調査で、避難民の5人に1人が鼻血を訴えたと報告しています。こうした厳然たる事実があるのです。
この鼻血については、次のように考えられます。通常は原子や分子は何らかの物質と電子対として結合し存在しています。セシウムやヨウ素も例外ではなく、呼吸で吸い込む場合は、塵などと付着して吸い込まれます。このような状態となれば放射化した微粒子のような状態となり、湿潤している粘膜に付着して放射線を出すことになります。そのため一瞬突き抜けるだけの外部被ばくとは異なり、準内部被ばく的な被ばくとなるのです。
健康影響は、不溶性の放射性微粒子が、粘膜が湿潤した鼻・喉頭・口腔・咽頭の広範囲な粘膜に付着すると影響は強く出ます(面積効果)。これらの準内部被曝という観点では、①セシウムホットパーティクル②不溶性の微粒子③付着して被ばく④面積効果⑤子どもは高感受性、などを評価する必要があります。これらのことを、私は知人である三重大学の先生から情報をいただき、一枚の資料にまとめました。(下図)
事故後の状態では、放射性浮遊塵による急性影響が真っ先に出ます。放射性浮遊塵を呼吸で取り込み、鼻腔、咽頭、気管、そして口腔粘膜も含めて広範囲に被ばくすることになりますから、最も静脈が集まっている脆弱な鼻中隔の前下端部のキーゼルバッハという部位から、影響を受けやすい子どもが出血することがあっても不思議ではありません。
また咽が痛いという症状もこうした機序によるものです。この程度の刺激の場合は粘膜が発赤したりする状態にはならず、診察しても粘膜の色調変化は認められませんが、粘膜の易刺激性が高まるため、広範な口腔・咽頭粘膜が被ばくした場合は軽度の痛みやしみる感じを自覚する訳です。受けた刺激を無視し、採血や肉眼的な粘膜炎所見などの明らかな異常がなければ、放射線が原因ではないとして刺激の実態をブラックボックス化するICRPの評価だけでは事実は解明できません。
ICRPの健康影響評価では現実に起こっている被ばくによる全身倦怠感や体調不良などのいわゆる「ぶらぶら病」も説明できません。そのため何の研究や調査もせずに、精神的・心理的な問題として片付けようとする訳です。今後、生じると思われる多くの非がん性疾患についても否定することでしょう。鼻血論争は、未解明なものは全て非科学的として退け、自分たちの都合のよい内容だけを科学的とする従来のICRP主義の人たちの発言の始まりでしかないと思います。
(追加) 世界で初めて証明されたセシウムホットパーティクルの論文サマリーに私の見解も入れたスライド原稿と、2104年4月の東京での放射線像展の写真で不溶性の放射性物質が付着している写真を付けておきます(下図)。
医学論文で、空気中の粒子状ダストが鼻血を増加するという報告もありますし、放射線治療においては常識的なボリューム効果(この場合は付着した面積効果)等の要因も考えると、放射線が原因では無いとは言い切れないと思っています。こうした放射性微粒子が2年経っても付着していることが写真で証明されています。洗ったTシャツを測れば、放射線が検出できるのはこのためです。